「大好きだよ」
「うん」
「ずっとずっと一緒にいよう」
「そうだね」

(あたしの大切なトモダチだから)
(俺の大事な女の子だから)

 

『友情と愛情の距離』

 

ミーン、ミーンと遠くでセミが鳴いている。
古びた扇風機がカタカタと首を振る音がやけに大きく聞こえるだけの、2人の静かな夏休みは、平和に過ぎていた。とはいえ夏は夏。Tシャツに短パンという楽な格好でいてもじっとりと汗がにじみ、畳の上に寝転がる幼馴染の横に沙耶(さや)も倒れこんだ。
「栄太(えいた)ー。ヒマだよ、なんかしよーよ」
「してんじゃん、2人で昼寝。楽しくない?」
栄太といるのは楽しいけど昼寝は楽しくない、と沙耶は側でゆれている蚊取り線香の煙を眺めながら頬を膨らませた。小学生の時に知り合ってから高校生になった今までずっと友達。家も近所で、よく遊ぶ。一緒にいることがすでに当たり前。沙耶はそんな幼馴染がいることが嬉しくて、こんなダラダラとした時間が好きだった。男の子は大きくなると女の子と遊ぶのは嫌がるかとも思ったが、栄太は特に気にした様子も無く、いつも通り沙耶を家に招いてくれる。二人ならではのこの距離がずっと続けばいいと思えた。
「……ねぇ、沙耶? それならさ、明日ばあちゃん家の近くで夏祭りやるんだ。一緒にいこっか」
最近幼さが抜けてきた顔でふわりと微笑んで、栄太が沙耶の結われた長い髪をなでる。昔から向かい合って寝そべってるときはよくこうやって頭を触っている。自分が小動物にでもなったような感覚にほおを緩ませながら、沙耶はこくりと頷いた。
「でも栄太のおばあちゃん家ちょっと遠いよ。2人だけで行けるかな」
「平気でしょ。もう高校生だろ?電車で少しだって」
そっか、と笑いながら目をつむる。生暖かい風が肌を撫でていった。
「じゃあ母さんに浴衣着せてもらうね。たこ焼き食べて、射的して、金魚すくいしよう。あと……」
「カキ氷も食べて」
「ダーツして」
「「最後にクジ引いて帰る!」」
2人同時に言ってから、クスクス笑いあった。必ずまわるコースを忘れるわけは無い。
小さい頃沙耶と栄太だけでこっそり決めたルートなのだ。
「ね、栄太。ずっと前にも言ったけどさ」
「何?」
沙耶はうんと伸びをしてから呟くように言った。
「あたしたちずーっとこんな関係でいれたらいいね」
大切な、大切な友達で。気を抜いた自分を見せられる存在。大好きな君。
嬉しそうにはにかむ沙耶に、栄太は笑い返した。
「ん……」
しばらく口を開かずにいると、沙耶が眠たそうに目を擦った。
「眠い?」
「……眠い」
じゃあ寝ちゃいな、と子供をあやすように肩をぽんぽんと叩いてやりながら、栄太は優しく目を細めた。沙耶はもうすでに意識を手放し始めていてる。しばらくすれば、気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。
「……ほんと、子供の時のまんま」
汗で額(ひたい)に貼りついた前髪をはらってやる。沙耶が小さく身じろぎをした。
「……俺らは、ずっと変わらないよ」
それが沙耶の望みなら。
栄太の言葉は、長いまつげを伏せて眠る沙耶には当然届いていない。栄太は少しだけ身を起こし、すぐ目の前で薄く開く幼馴染の柔らかな唇に、そっとキスを落とした。
「俺も沙耶が好き。ただ、沙耶の“好き”よりも……もっと好き」
夢の世界に溶け込んだ沙耶を包むように抱きしめて、栄太も目を閉じた。

 

遠くでセミが鳴いている。扇風機が首を振る音がする。

 

いつの間にかすれ違っていった友情と愛情がギシリと軋(きし)んで泣いた声が、聞こえる。

 

fin
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わー、なんてこったい。
「男女の友情はあると思うんだ!!」と主張したばかりの沙久がさっそく何書いてんだ。
でもなんかこーいうの書く気分だったんだ。
どうしても無自覚とか天然な子とか書いたり読んだりするの好きです、沙久。きっと沙久もそんな子になりたいんだわ。
…無理、そんな可愛い子になれない。諦める。夢だけ見とく。
なんだか切ない片思いをしてる栄太がお気に入りです。口調もなかなか好き。楽しかったです。
今回のは沙久としても結構お気に入りの話になりました!
みなさんはこういうじれったいの、どうでしょうか…キライ?

 

(2011/2/12 加筆修正)
沙久