この感情、あの思い出。
ソレハ 真ッ白 ナ 生クリーム ヨリモ 甘イ デスカ ?

 

『指先から、思い出すの』

 

深夜、どうしても寝つけずに寝室を出た。なにか口にしたくなり、何もないリビングを通り過ぎ冷蔵庫をのぞく。その中も広々としていて、冷気を吐きだす音が、小さく響くだけだった。
「……ああ、そっか。これがあること忘れてたな……」
小さく可愛らしい箱を取り出し中を見ると、生クリームで飾られたショートケーキがひとつあった。昨日、会社の帰りに見つけた新しいケーキ屋で買ってきたのだ。特別食べたかったわけでもなんでもなかったのだが、なんとなく……という感じだろうか。他にも色々と種類があっただろうに、わざわざショートケーキを選んだ自分に思わず嘲笑が漏れた。ばかげている。無意識に引きずっているのだろうか。

私がまだ学生だった頃。まだ社会人なんて面倒なものになる気もなく、ただほわほわとしてた大学生だった頃、つきあっていた男がいた。年下で、そのとき彼はまだ高校生だっただろうか。可愛らしい顔立ちをした、背の高い子だった。甘党な彼はケーキが大好きで、うちに来るときの手土産は決まってショートケーキ。どうしていつも同じなのかと聞いたら満面の笑みで「好きだから」なんて言うから、料理なんて苦手なのに、何回か作ってあげたこともある。
人懐っこくてかわいい、とてもいい子。それが彼だった。

私が会社に勤めるようになって、彼が大学生になった。互いに忙しくなり会う機会もどんどん減って、なんだか本当に“つきあってる”のかな、とか思ってしまう日が続いて。久々にケーキでも買って会いに行こうかと連絡もせずに家にいくと、そこには私の知らない女物の靴。私の知らない香水が香る上着。私の知らない笑い声。泣いて騒ぐことも冷たく罵ることもできなかった私は、震える脚を??咤して、音をたてないようにそっと帰った。
なにがだめだったのかな。
メールや電話、あんまりしなかったこと?返事がそっけないこと?
年上だってこと?
心のどこかで「あんたに限って」とか思ってたからこうなったんだろうか。
もう彼と別れて結構たつと思う。気持ちはすっかり冷めたし、連絡も取ってない。忘れてる時間の方がずっと長いくらいだ。
私は真っ赤なイチゴがのったショートケーキから生クリームを指ですくうと、ゆっくりとそれを舐めあげた。
「……あまぁい」
彼が好きだったショートケーキ。私が嫌いだったショートケーキ。
もう見たくもないわ。

 

私はもう一度、純白の色したそれに指をはわせた。

 

fin
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だから暗いって;;
社会人が主役って、沙久にしてはすごくめずらしいんですよー。ラクガキでも
あんまないかも。マンガだともっとないです、だって大人かくの苦手なんだもorz
なんか生クリームを指ですくって舐め取るっていうしぐさがかきたかったんですよね。
でもそれって下手したらR指定入りそうだったのでどういう話にするかかなり迷いました…;;
ちなみに過激な表現が含まれる場合はちゃんと場所を変えますから、苦手な方は
さけられるようにしますよ!(←書くんかい)

 

(2011/2/12 加筆修正)
沙久