『幸涙鳴響(こうるいめいきょう)〜誰も知らない館の話〜』

 

「アナタ」の手に包まれたその日から  「ワタシ」はここをぬけだせない
随分と遠くなった空  何度も染められてかわいそうね
与えられたものを「ワタシ」は幸せとは思わないわ
「アナタ」の瞳は優しいけれど  「ワタシ」は自由を愛してる
早く扉を開けてと それだけを願ってた

 

いつしかなくことも忘れて  でも「アナタ」はキライで
それでも与え続けられる“幸せ”  「ワタシ」をキレイだという「アナタ」
「ワタシ」は愛されてるのかしら  「ワタシ」は愛してるのかしら
この空間に
この空間を
空はまだ遠いというのに

 

ある日「アナタ」は来なくなった  何日も何日も来なくなった
ためしに出してみた声は いつかと変わらず響くのに
「ワタシ」は自由を愛してる  「アナタ」は「ワタシ」を愛してない

 

不意に音を立てる扉「ワタシ」を外へ誘(いざな)う
どうして気づかなかったんだろう
扉に鍵なんて 最初からなかったの
「ワタシ」はいつでも自由になれた
「ワタシ」はいつでも自由だった
泣けるものなら 泣きたかった

「アナタ」は「ワタシ」を捕まえてなどいなかった

 

姿を見せない「アナタ」を探す
久々に感じた 風を切る喜び
「アナタ」がキレイといってくれた青い輝きがはがれてゆく

 

やっと見つけた「アナタ」はやけに冷たくて
そばに寄った「ワタシ」も ひどく疲れてて
初めて寄り添った体 ひんやりとしてて
あたたけてあげたいのに 「ワタシ」もひんやりとしてる

 

「アナタ」の冷たい指の腹で頬を撫でられ顔を上げると
「アナタ」は「ワタシ」を見て微笑んでくれたから
きっと「アナタ」は今 “幸せ”なんだと思えたの

 

「ワタシ」はもう逃げないわ
「アナタ」のそばを離れないから
だから安心して

ああ 「ワタシ」は やっと“幸せ”を手に入れた

 

朝日を浴びて 日差しに照らされたのに
「ワタシたち」は 冷たいままだった         

 

fin
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なんとなく暗いかも…と思いつつお気に入りなのでアップしました
これ実は鳥かごの中で飼われてた鳥のお話なんですけど、気づいてくださった方いらっしゃいますかね…?;;

弱ってるところを助けられて飼われてたんだけど彼女は自由を奪われたとずっと思ってて。
世話をしてくれるからなにも苦労はしなくていいけど、そんな風に与えられる幸せに納得できなくて。
でもきっと最初から彼のことは好きだったんだと思います。案外意地っ張りなのかも?
最後、彼は一人で天命を迎えようとしていました。他に人もいない古い洋館で彼が亡くなっても気づく人はいないはずでした。
彼女が来てくれた時彼は本当に嬉しかったのではないでしょうか。
彼女も再び弱りきっていたのは当然のこと。毎日ご飯をくれてきた彼が何日も来なかったので、彼女はずっと何も食べてませんでした。それでも彼女がつかんだものは、彼女にとって幸せな…大切な気持ちでした。

こだわりは「いつしかなくことも忘れて」の“なく”をひらがなで書いたこと。決して変換忘れではありません。本当は「鳴く」だけど、「泣く」ってイメージを持ってほしくてそうしました。
それから最後、「ワタシたち」ってとこも。“たち”までカッコにくくったことで主役の心境の変化を出したかったんです。

ちなみにこの話、下書きの時点では「悲涙鳴響」って題でした;;
打ち込んだときに「悲涙」が一発で出たからもしかしてそういう単語があるのかな?って思って(知らずにつけました;;)電子辞書で調べてみたら「悲しくて流す涙」(そりゃそうだ)とありまして。
題を考えたときは悲しい話だからと思ってそうつけたけど、改めて意味を考えると主人公は形はどうあれもう悲しんでないわけだから、悲涙じゃないのでは…?ってことで急きょ変更。

っていうか解説長い;;
失礼いたしました…

 

(2011/2/15 加筆修正)
沙久