この想いがむくわれなくてもいい、なんて。
らしくないこと考えさせたのは君なんだって言ってやりたい。

 

『ヲトメ事情。〜近いから遠いモノ〜』

 

「……おい歩美(あゆみ)」
「なによ」
面倒くさそうに声をかけてきた幼なじみに、目線もむけずに返事を返した。あー、眠い。いっそ本当に寝てしまおうかな。
「いつまで人の肩にもたれてんだよお前は……いい加減どけって、重い」
ここは、今しがた不満げに文句を言ったコイツ、栄二(えいじ)の部屋。私が遊びに来ているっていうのにベッドに腰かけて週刊マンガを読みだしたので、放ったらかしにされている腹いせに、栄二の肩にもたれてやっていた。座ってるから全体重とはいかないけど、なかば頭を押し付けるようにして重みをかけいる。効果は多少あるようだ。
「ヒマなんだってばー。それくらいいいでしょ、別に」
言葉の代わりに吐きだされたため息が、「まあいいか」というあきらめを含んでいるのがわかる。なんだかんだいっても栄二は私に優しいし甘い。それはいつものことだった。
理由や目的がなくても家に遊びに行ったり、お互いに名前で呼び合ったり、他の人は知らない秘密を知ってたり……。そんなことがごく普通にできる関係、いわば“幼なじみ”の特権を、私はフルに活用していた。彼女でもないのに二人きりの部屋でくっついていても許される。私のささやかな楽しみ。でも、その度に。こっちがまったく女として見られてないんだと思い知らされるんだ。
私たちはあくまで幼馴染。コイツにとって、幼馴染。だから受け入れてもらえてるけれど、そのせいで意識してもらえないなんて。
ずっとそのジレンマがもどかしかった。
「栄二ぃ……」
眠気に負けて頭がぼんやりしていく。そのせいかいつもより甘ったれた声が出た気がした。甘い空気などカケラもないこの触れ合いをいつまでもしていたいのに、栄二に彼女ができてしまえばそれさえもかなわないのだろう。その時私はどうしたらいい?この距離を、このジレンマさえも奪われたら私はどうしたらいいの……?
「……歩美? 寝たのか……?」
もう一度、栄二のため息が聞こえた気がした。

 

 

ねえ、いつかその日が来るまでは
このどろどろとした気持ち良さを私から奪わないで。

 

fin
…………………………………………
初短編のくせにこんな空気でいいのか、いやよくない。(反語)
なんだか“乙女”にすると女の子らしい、いじらしい感じがするので(どんなだ)あえて“ヲトメ”です。
栄二目線でもう一本書くのもいいなぁ…両思いになってしまう確率めっさ高いけど←

 

(2011/2/12 加筆修正)
沙久