これは以前upした「図書館迷宮〜君に迷い込む〜」の別視点です。
そちらを読んでからの方がわかりやすいかと…

 

『桜の華が咲く頃に〜図書館迷宮〜』

 

花びらが散る春。いったい何度、窓の向こうのあの木が花をつけるのを見ただろう。
図書館のすぐ横に静かにたたずむ桜を二階から眺めながら、おれは読んでいた小説にもう一度目を落とした。学園にはもう新入生がきたのだろうか。何人がここに来て、何人がおれを瞳に映すだろう。おれに気がついてくれるかな。
――真彦(まひこ)、さよなら。またきっと会えるよ――
最後におれと会話してくれたのは、短く髪を刈った幼い笑顔の男の子だった。あれから誰も来ない。そのせいで外の話や様子、変化をしるすべがなく、おれの知識は昭和の終わりで止まっている。読みつくしてしまった本を再び手に取る毎日にはそろそろ飽きたいた。そんなことをしているうちに、疲れて目を閉じてしまっていたみたいだった。

 

カツン、カツン。不意に足音が聞こえてきた。誰だよ、おれは眠いんだ……。
足音がおれの前で止まった。息を呑む気配。なんだろうと目を開けてみると、丸い瞳の少女がそこにいた。まっすぐにおれを見て驚いた顔をしている。……おれが、見えてる。この子にはおれがわかるんだ!興奮を抑えようとして声まで潜めてしまった。
「あんた、誰……?」 そう聞いただけなのに少女はあたふたとしていた。可愛らしい目を泳がせるようにして、あきらかに焦っている。純粋で優しそうな子だ。おれは思わずそっと笑った。これでしばらくは楽しくなりそうだ。
「……ようこそ、おれの図書館へ」

 

おれに呪われた、この場所へ。迷い込んできた君を逃がしはしない。

 

fin
…………………………………………
真彦、ちょっと黒いですね;;
ここで忘れちゃいけないのが真彦が幽霊であることです。
つまり普通の人には中々見えなくて、図書館の外の話をしてくれる人がいないんですよ。
…うん、真彦が図書館から出られないことを言い忘れてましたorz
「おれに呪われた」ってのは…次作(実質「図書館迷宮〜君に迷い込む〜」の続き)で発覚すればいいなーと思います。

 

(2011/2/13 加筆修正)
沙久