『君はオレのもの(類×冴)』

 

「類くん、それ何?」
「え?」
姉さんが自宅で主催したお月見パーティで、さっきまで保と楽しそうに話し込んでた冴ちゃんが不意にオレの方を向いた。少しぼんやりしてたから反応が遅れる。
「……これ?チューハイだよ、チューハイ」
指差された缶をゆらゆらと軽く振ってみせた。酒なんて久々に飲んだ気がする。早いもので成人してからもう6年もたつけど、付き合い程度にしか飲むことが無い。保と二人で飲み会をするときにはアルコールに強いアイツに合わせてたんじゃ身が持たない、と逆につまみにだけ手をだすようになっていた。
「ふーん、なんだお酒なの……。おいし? どんな感じ?」
「まあ、それなりにおいしいかな。オレ、酒は好きかっていわれるとそうでもないんだけどね」
そう言って中味が残り少なくなった缶をまた傾ける。口の中で広がる味がシュワシュワと弾けた。
「……そういえばなんでそんな体ひねってんの? その姿勢しんどうそう」
ん? と可愛らしく目を瞬(しばたた)かせてから、オレを肩越しに振り返っていた冴ちゃんは小さく苦笑いした。そんな表情さえ綺麗だからたまらない。思わず頬を緩めていたが、彼女の次の言葉にピタリと固まった。
「工藤がね、私のひざで寝ちゃったから動けないんだよ」
よくよく見てみれば、冴ちゃんの体で頭は隠れているが保の大きな背中が横になっている。普段あれほど強いというのに、冗談じゃない。
「今日のお月見のために昨日残業がんばったんだってさ。疲れてんだよ、寝かせたげなきゃ」
そう優しげに、無意識だろうか、微笑みながら保の髪をそっと手で梳(す)いた。女性らしくて、どこか“母親”を思わせる瞳に一瞬目を奪われたが、今はそれどころじゃないと慌てて立ち上がり彼女の肩を強く引いた。
「うわ、あっ!?」
「……う゛っ」
思い切り抱き寄せたせいで保が冴ちゃんのひざから落ち、床に頭を打ち付けたようだ。でも眉をしかめてうめき声をあげたものの、起きる様子は無い。冴ちゃんはきょとんとしてオレと保を見比べていた。……何を驚いてるのさ。そんなミニスカート姿で、君に気がある男に膝枕してるなんて。この子はどうも無防備すぎる。
未だにどうしたらいいか分からないといった風に目を泳がせる冴ちゃんを背中からぎゅっと抱きしめる。あぁ、オレも大分酔ってきてるのかもしれない。
「……類くん?」
困ったような冴ちゃんの声が聞こえる。なに、と返事をしたつもりだったが、オレの唇は動いちゃいなかった。
なんだかふわふわする。冴ちゃんの、いい匂いがする。

 

「……しょうがない大人たちねー、まったく」
「真由さん……ねぇ、工藤も類くんも寝ちゃったんだけど」 柔らかな香りに包まれながら身じろぎをする。
姉さんが酒の買い足しから帰って来るまで、オレは冴ちゃんに優しく抱きしめられていたらしかった。
「ほら類、起きて。冴ちゃんから離れなさいって」
「……だめ、オレの」
半分だけ開いた目に映る冴ちゃんの照れくさそうな笑顔を見つめながら、頬にそえられた彼女の小さな手を握って言うと、オレはまたそのまま意識を手放したんだ。

 

(おまけ)
「……昨日、雪村と話してた途中から記憶が無い」
「へぇ、そう」
「……頭に小さなコブができてた」
「うん」
「……俺、もしかしてお前に殴られて気絶したんじゃないか?」
「それはどうだろうねぇ」
彼女の太ももを枕にしていたとは死んでも教えてやるものかと類は黒く微笑んだのであった。

 

fin
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拍手御礼小説第二弾(^ω^)
類くんはそんなこんなで嫉妬深かったらいいなぁ…と、いう沙久の願望←
おまけの部分は2ページ目にあったんです。何人が気がついてたかな?

 

(2011/5/4 加筆修正)
沙久