目が覚めた。予定も何もない普通の土曜の朝だ。起き上がって時計を見るとまだ6時だった。
(どうしたんだろ……いっつも圭介に起こされないとずっと寝てるのに)
 休日のこの時間、圭介だって寝ているはず。今日は逆に起こして驚かせてやろうと私はパジャマを脱いだ。

 

『オカンのいない朝』

 

 私、なつみ。腐れ縁のような幼馴染と同じアパートで隣の部屋に住んでる。鍵はお互いに持ってるしいつも部屋を行き来してるから、私らって仲いいんだと思うよ。だけど鍵を開けても呼びかけても、今日の圭介は返事を返してくれなかった。中を覗き込むと――……いない?
「あ……そっか。圭介、今ばあちゃん家だ」  今になってようやく思い出した。詳細は知らないけど、圭介のばあちゃんが入院したから田舎まで様子を見に行ってるんだ。つい昨日の夜のことなのに完全に忘れていた。火元や戸締りに気をつけろってうるさい圭介を見送って、2日なんてすぐじゃん、って笑ってたんだった。
 しんとした部屋が少しさみしく見えて、ドアを閉めないと温かみがみんな吹いて出て行ってしまいそうだ。私は圭介の部屋にあがってそっと扉を押した。日曜の夜まで圭介は帰ってこない。このきれいな部屋で、あの使い込まれた黒いエプロンをつけて私をしかりつける圭介が、いない。
 生まれた時から幼馴染で、一人暮らしを始めてからも隣人で、丸一日合わない日なんて最近は全くなかった。だからかまなんだかさみしいみたいだった。
「つまんないな……」
 口を開いても独り言で終わってしまう。私がこんな思いをしてても、圭介は逆にせいせいしてるかもしれないけれど。
 そう思うと急にムカムカしてきた。腹が立った勢いと嫌がらせのつもりで冷蔵庫を力いっぱい開けてやる。朝ご飯を調達してやるんだ。開けてまず目に入ったのは詰め込まれたタッパーの山だった。そこに走り書きのメモが雑にはりつけてある。

“どうせ俺の部屋に来てるなつみへ
 運ぶのが面倒だからここに入れておく。
 自炊は諦めろよ、むしろするな。
 買ってくるか、これを食べるかするように。

                     圭介”  タッパーにはそれぞれに色んな種類のおかずが入っていた。好きなものも嫌いなものも、たくさん。全部手作りだった。
「なんでお見通しなの……ムカつく」
 そうは言ってみたけど、ちょっと泣きそうだった。
「圭介……」
 なんだよ、と不機嫌そうな声が返ってくる気がした。今度は何となくじゃなくて本当にさみしくなった。私は思ってたより……圭介のこと好きみたいだ。
「もし圭介がいなくなったら、私……」
 もう一度タッパーを見る。なんてありがたいんだろう。
「圭介がいなくちゃ、飢え死に しそうだよ……」

 

でもやっぱり出来たてのご飯が食べたいから、圭介が早く帰ってきますようにと祈って私は朝ご飯にありついた。

 

fin
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そっちかい!!と俺自身がつっこんだというね(^^;
主人公のいない、なつみ目線?編。結局恋愛に絡めないおにゃのこ。
これを書き込んであるノートには↓
「え、なに俺ときめき損…」
「は?何言ってんの?」
と走り書きが(笑)

 

(2011/9/7 加筆修正)
沙久