「おいなつみ、かえるぞ!」
「いーっや!!」
それは小さな、小さな出来事。

 

『ファーストオカン in みにまむ』

 

 おれ、圭介。幼稚園で10番目にでかいし、ピーマンだってたべれるんだ。すごいだろ。
「なつみ、まだあそびたいもん。けーくんのいじわる!」
 こいつはとなりの家にすんでるなつみ。今日はかあさんがいっしょにいないから、くらくなったら2人でかえってこいって言われたのに……さっきからこいつ、砂場にすわりこんで動かない。なつみは男あそびが好きだから楽しいけど、ちょっと、わがままだ。
「じゃあおれひとりでかえるぞ。おまえ、公園からかえれんのか?」
「……かえれるもん」
 ぜったいウソだと思った。どうせ道がわかんなくてついてくるだろうからって、おれはなつみをおいて歩き出した。

 

「あのバカ……っ」
 しばらくしてふりかえってみても、なつみはいなかった。それだけじゃない、公園にもどってみてもいなかったんだ。本当にひとりでかえろうとして、やっぱり道まちがったのか。近くを走りまわって何度も名前をよぶけど、だんだんまっくらになってきた。はやく見つけないと……。そう思って角をまがったら、青いスカートが見えた。
「なつみっ!!」
 泣きはらした顔のなつみがふり返った。
「けーくん……っけーくん!!」
 おれをよびながらなつみはめちゃくちゃ泣きだした。しょーがないから左手でなつみの右手をにぎってひっぱるように歩きだした。
「バカなつみ。やっぱおれがいないとなんにもできないくせに」
 なつみはもっと泣いたけど、おれの左手をぎゅってにぎり返してきた。
 おれがこいつをちゃんと守ってやらないといけないような気がした。
 おれからはなれんなよ、って言ったら、なつみは小さくうなずいた。

 

***

 

「……なあ、お前が俺のこと圭介って呼ぶようになったのっていつからだったっけ?」
「え、何突然。最初からじゃないの?」
 えてないか、と俺は苦笑いをした。目の前には昔の思い出の中の小さな女の子ではなく、大人になったなつみがいる。あの時は大学生になって独り暮らしを始めてからも隣人をやってるとは思いもしなかった。あの頃から俺はお前の面倒を見てるんだぞ。そう思うと、なんだかおかしかった。
「変なの、圭介。急に黙ったと思ったらそんなこと言って…それよりほら、続き続き!早くしてね」
 なつみの声にハッとして見ると、俺の右手には黒い糸を通した針が、左手にはなつみの水色のシャツとつけかけのボタンがあった。………。
なんでこんなことになってるんだっけな。
 今更のようだが文句を並べてやろうとしたその時、なつみがむくれたように言った。
「私は昔っから圭介がいないと何にも出来ないんだから、ちゃんと面倒見てよね、まったく」
 偉そうな言葉には違いない。だが俺は怒るに怒れなくなった。
 半端に覚えてんなよ、このばか。
 なんとなく笑ってしまいそうな口元を引き締めると、俺は黙ってなつみの頭を小突いてやった。

 

fin
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久々だね、オカンシリーズ!しかもほのぼの過去編!!
本当ならもうそろそろ大学卒業なんだけどねこの子ら☆←
なんだかんだでオカンの行動には愛が詰まっております。なつみが嫁に行く日には泣きそうだな、親心的意味で。あ、でもなつみがオカンに嫁げばいいのか?
…オカンがなつみに嫁げばいいんだ!!!(え
「と、いうわけで幸せにするからね圭介!」
「だれが嫁ぐかあああ!!!!」
「あと収入も期待してるから!」
「って稼ぎに出るのも俺かよ!!!!!」

 

(2011/9/7 加筆修正)
沙久