「遼子(りょうこ)、何してんだよ。早く来いって」
「……うん」
なんだろう。なんでこうなったんだろう。
……なんか、悔しい。

 

『紅葉舞う、君色刹那』

 

 去年の春から毎日変わることなく、幼馴染2人で通い続けた道を歩きながら、私はむむと唸った。
 隣を歩くのは、山口淳(あつし)4月2日生まれ。それで私は松本遼子、3月30日生まれ。2日に生まれたことでギリギリ私の後輩になってしまったことに、いつも不満をこぼしていた淳も、今では高校2年生。私も姉になったような気持ちで「大きくなったなぁ」なんて思ってたけど……。
(……なんで、急に身長までこんなに大きくなっちゃったんだろう)
「遼子、今日お前変……なにさっきから人のこと睨んでんだよ」
 呆れたような声はあの可愛らしい高い声とは違う。見下ろしていた目も私より少し上にあるのだ。学ランの袖はもう余っていないし、全体的にブカブカだった頃が懐かしい。
 たった一年くらいでこんなに成長するなんて……男の子ってなんてずるいんだろう。
「淳……もうかわいかったアンタは見れないんだね……」
 なんだか少しさみしくなってウッと泣きまねをする。下を向くと茶色の髪が冷たい風に揺られて鼻をくすぐり、派手なくしゃみがでてしまった。そんな私を見て淳が遠慮なく笑った。
「なに、そんなに笑わないでよ!」
「はは……っちょ、ムリだって……遼子おもしれー!」
「こら、遼子お姉さまに失礼だぞっ淳!!」
 なんだかどんどん恥ずかしさが増し広くなった背中を平手で何度も叩いてやる。痛い、痛いと言いながらも淳は楽しそうに笑ってた。
「もう……せっかく大人っぽくなってきたなーって思ってあげてたのに、そんなことで爆笑してるなんて、まだまだ子供なんだから!」
 ふんっと目をそらして言った言葉に、淳がピタリと笑うのをやめた。ジッと見てくるので、私もなんとなく目をあわせた。不思議な沈黙が一瞬流れた。
「……オレ、大人っぽくなった?」
 何が言いたいのかと首をひねると、いいから答えろとせかされる。
「そりゃ、なったでしょ?」
 何気なく言ったつもりだった。実際、たいしたことではないと思ってた。なのに、淳が不意にそっと目を細めて柔らかに微笑んだんだ。優しげで、嬉しそうな笑顔。
(え……なに、そんな表情(かお)、して)
 こいつ、いつからこんな笑い方するようになったんだろう。
 どうして私、淳から目が離せないんだろう。
「そっか、オレももう17だもんな! でも遼子に追いつくにはまだまだなんだよなー」
「お、追いつくって何よ」
 変にどぎまぎしながら言うと、さっきとは違う少年らしさを思わせるようにニカッと笑う。
「……だってさー、遼子はこの一年で、なんかどんどん大人になっていってる気がしてさ。オレだけ置いてかれんのは悔しいだろ」
 おんなじこと、考えてたんだ。
 なんだか可笑しく思えてクスクス笑ってしまうと、自分のことを笑われたと思ったのか、淳が頬を染めたのがよくわかった。
「ふふ、やっぱり淳はかわいいなー」
「……にゃろー」

いつも2人で歩いきた道は、今ではすっかり秋色になっている。
落ち葉を踏みしめる音を聞きながら歩くのが楽しくて仕方が無かった。

紅葉舞う、君色刹那。

 

ほんの一瞬、君に見とれてしまったのも
きっとこの舞い散る赤色に君が色づいていたから。                            

 

fin
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はい、なんじゃこりゃ的グダグダエンドを迎えやしたぜ『紅葉舞う、君色刹那』。
タイトルは自分でも軽く意味不といわれても仕方ないと思っている←
刹那は「一瞬」って意味だから、遼子の心が一瞬だけ、淳でいっぱいになった…的な。
…自分で言ってて寒い(汗)
今回の話はですね、実は以前ゆうかりんさんにリクエストしてもらって書いた800hit御礼小説『桜咲く、宣戦布告日和』の続編となってるんです。一応これだけで独立させたつもりなんですが、大丈夫でしたか?
ちなみに最後に淳が赤くなったのは遼子の笑顔がかわいかったからなのです。1年がたち、ようやく恋心を自覚した模様。
「色づく」は色気づくって意味で取っちゃダメです、頬が染まってるって言いたいんです←

 

(2011/5/29 加筆修正)
沙久