「う、あー……」
喉が痛い。頭がガンガンする。
何も12月31日なんかに風邪引かなくったっていいじゃないの…。
『今年最初は君の声』
薄暗い、私以外誰もいない静かな家に、着メロがうるさいくらいに響いた。実際にはそんなに音を大きく設定してないけれど、風邪っぴきの頭にはつらいものだ。なんせ携帯は耳元、枕元にある。もはや爆音だ。
“年越しパーティー、来れそうにない?”
目を開けるのも億劫(おっくう)なのだが、急用だとそれも困るな、と新着メールを開くと、そんな内容だった。小学生の頃からの付き合いで、大学に通う今も交流が深いメンツでの集まりに参加できないのは、どうにも悔しい。せっかく一人暮らしを始め、深夜に出かけるのも誰にも止められることのない、自由な生活だというのに。まさかこんなタイミングで家の中を動き回るのさえままならない状態になるとは……。
“ゴメンむりだわorz
みんなによろしく、良いお年をー”
カチカチといつもより遅く打ち切ると、目を閉じて指が覚えてる押しなれたボタンを押す。たぶんディスプレイには「送信しました」と出ているはずだ。
「もう10時、かぁ……」
呟いた声が掠れてる。おなかすいた、でも起きたくない。
もう考えることも嫌になって布団を耳まで被ると、そのまますぅっと意識が遠のいていった。
チャラーラーラーラー…♪
「……んぁ……?」
またメールだろうか。耳に馴染んだ、それでもやっぱりうるさい音で目が覚めた。いつの間にか寝てたみたいだ……今、何時だろう。
ラーラーラー…♪
「る、さい。何、しつこい……」
やけに長い着メロにイラついてディスプレイを見てみると、そこには「着信 まさと」とだけ書いてある。年越しパーティー中だろうソイツからの電話、面倒くさい気持ちでいっぱいだったが、すぐに切ってやるつもりで通話ボタンに親指をのせた。
『……もしもし。朝香(あさか)、起きてるか?』
「あんたに起こされたんだよバカ……」
しばらくおとなしく寝ていたからだろうか、いくらか気分はマシではあるがやはり声をだすのはツライ。せめてメールにしてくれればいいのに、それくらいの気遣いはしてくれたっていいと思う。
「ホント何……しんどいの、切らせて、死んでこい」
ひでぇな、とまったくそんなふうに思っていないだろうに雅人(まさと)が耳元で苦笑いした。何の用、と短く聞けば、返ってきた答えも非常にシンプルなものだった。
「あけましておめでと」
「……へ? 何言って……」
まさか、と思い傍にある目覚まし時計に手を伸ばす。
「うそ……ちょっとしか寝てないと思ってたのに……」
デジタル表示のそれは、きっちり夜の12時1分を示していた。ついさっき年が明けてしまっていたのだ。なんとも味気ない2010年の幕開け。どうせならこんな中途半端にではなくすっきりと1月1日の朝に目を覚ましたかった。
「ホントは12ジャストにかけたんだけどな」
「あっそ……新年おめっとさん。でもそんだけならメールでいいじゃんよ……」
ぐっと伸びをしながら欠伸交じりに言うと、呆れたような声が返ってきた。
「今メールなんかしたら回線が込み合ってて送れやしねぇから」
「12時にする必要がない」
ぴしゃりと言い切ってやる。普通の新年ならまだいいがこっちは一応病人なのだ。なんでもいいからこのよくわからない会話を終わらせてくれっての。
「電話ならメールの送信待ちしてるより確実に今年最初になれんだろ」
意味わかんないよ、とため息をつく。そういえば……電話の向こうがやけに静かだな。
「あんた、今どこにいんの? みんなの声聞こえないけど」
「店の外。ちょっとでてきたんだ、邪魔されたくなかったし」
「だから意味分からんて。さっきからなんなの? 今年最初とか邪魔されたくないとか」
少し肌寒く感じてぶるりと身震いをすると、雅人も寒かったらしく小さなくしゃみが聞こえた。わざわざ体冷やして何やってんだか。コイツは時々こういうバカをやる。
「今年一番にお前と喋った奴、俺になったろ。メールじゃ難しそうだったから電話した」
鼻をすすりながらの低音の言葉に目をぱちりと開く。そりゃ、まぁ、確かにあんたが一番最初だけど。
「……そんなことのために?」
「大事なことなわけ。んじゃ、お大事に」
えっと声を上げた時にはもう「ツーツー」という無機質な音しか聞こえず、私はまじまじと無言の携帯電話を見つめた。
(なんなの、なんなわけ……)
聞き慣れた低い声の意図がよく理解できない。
一番早く私と話すことが、そんなに大事?
――大事なことなわけ
「……意味、わかんない、ってば」
今年最初に聞いたのは君の声。
2010年、初めて聞いた君の声に、無駄なくらい……熱が、あがりそう。
頬の熱さを持て余して、私は布団に潜り込んだ。
fin
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あけましておめでとうございまーす!
まぁこれアップするのはまだ2009年なんですが←
会話多めになりましたねー。ってか朝香ちゃんあんま風邪引いてるっぽく無い;;
前の年明けにはちょっとギャグ路線アダルティ系(何それ)だったので、今度は恋の始まりなんだかなんなんだかの純愛ちっくに書き上げてみました。
幼馴染にときめいてみようキャンペーンです、沙久の小説には幼馴染がよくでてきます。都合いいから。もどかしい感じがニヨニヨだから!(こら
(2011/5/29 加筆修正)
沙久