『これだから(是俣×永瀬)』

 

※僕月最終回その後

 

「佐藤君、元気かな」
「元気元気。すっかり北海道の空気に馴染んじゃってるってさー」
教室の端、自分の席での何気ない呟きに返ってきた確かな返事に、僕は真丸いことを少し気にしてる目を瞬かせた。いつの間に永瀬さんは隣にいたんだろうか。僕の視線に気づくと、心なしかそっと目を細めてくれた気がした。……笑顔なんて、佐藤君と付き合うまでは見れなかったのに。
(違うな……昔はよく、見せてくれてた)
僕らはもともと同じ小学校出身。本当に小さかった頃にはいつも一緒に遊んでいた。もちろん佐藤君や他の友達も。佐藤君がみんなに永瀬さんとのことをひやかされて彼女にひどいことを言うまでは、永瀬さんはいつも笑顔だったんだ。迷惑極まりないね。
「……なんでわざわざそんな奴とまとまっちゃったかなー」
おっと、つい本音が。永瀬さんは一瞬きょとんとしてから僕を見てきた。
真っ直ぐな、射るような目。僕が好きになった、瞳。僕の頬がすうっと熱を持ち始めたことにも気づいていないのか、永瀬さんはぐっと顔を近づけてくる。それ以上は、ちょっと……っ
「佐藤のこと……言ってる?」
永瀬さんが声を落としたことで、周りに聞こえないようにしただけだとわかった。……勘弁してほしいな。
「是俣……その、あの……心配してくれてるの?」
少しだけ気まずそうに言う。その様子で僕が前に告白したことを忘れられたわけじゃないんだな、と思わず苦笑いがもれた。さすがの永瀬さんも、いつも通りに振舞ってはいても、気にしていてくれたんだね。
「佐藤君は素直じゃないからね。まあ、永瀬さんはそんなところも好きなんでしょう?」
にこっと笑ってみせると、永瀬さんの頬がかすかに色づいた。ぐ……そんなかわいい顔して……。
「……是俣の、くせにっ」
「ふふ、褒めてる褒めてる」
「志保ーっちょっと来て!」
照れて拗ねていた永瀬さんを、遠くの方で谷さんが呼んでいる。永瀬さんは雑に返事をしてから立ち上がった。
「……あ、そうだ是俣」
離れてからくるりと振り返る。最近伸び始めた綺麗な黒髪が僅かに揺れた。
「でっかい魚逃がしたなって、アタシに思わせてみな」
「な……っ」
にっと悪戯っぽく笑って、永瀬さんはトタトタと走って行ってしまった。
教室の隅。日の当たる席にひとり取り残されたまま、僕はカーッと赤くなった。だって今のは、まるであの頃のような魅力的な微笑。

 

せっかく諦めようとしてるのに……これだから、君という人は。

 

おまけ
「……まだ志保のこと好きなわけ?志保と仲よさそうにしちゃって、諦め悪ーい」
「まだ佐藤君のこと好きなんじゃない?永瀬さんと親友なのに、わー、恐ーい」
「……あんた、可愛い顔していやな奴よね」
「褒めてる褒めてる」
最近は谷さんのイラついてる顔見るのが楽しくて仕方が無い僕です。
いい反応するよね、彼女。

 

fin
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第三弾はなつかしの僕月で。是俣をもうちょっと活躍させたかったなーという気持ちで書き上げました。
是俣の新たな恋の予感…?しかしSっ気に目覚めてるぞ(笑)

 

(2011/5/4 加筆修正)
沙久