『放課後コンパス』

 

僕のコンパスが もう少しだけ長かったら
僕らの軌跡(じんせい)ってやつも どこかで交わっただろう

さよなら

 

同じ校舎
同じ教室
別々の席
僕と君を繋げるなら たぶんそれくらい

おはよう、すら言わない僕ら
最後に話したのは いつ?

「馬鹿げた問いだ」
先生の口真似
ホントは一度だってない

 

机の向こうに
落としたのは消しゴム
それと隠してた視線

 

顕微鏡で涙を観たら 教科書にもないかたち
君に教えてもらいたかったけど
隣の男子とお話し中。。

 

一年目
並べば 最初と真ん中
つま先立ちも2p足らず

二年目
僕の7oを5pで返す君
遠い

三年目
届いたとしても
距離は変わらないと気付く

 

君の座る席に向かって
伝える練習放課後
100文字以内でまとめよ。
じゃなきゃ落第点

 

僕のコンパスが もしも直線描けたら
君を守る楕円(バリア)に
まっすぐ伸びていくのに

 

机の向こうに
落としたのはワザとです
振り返るために

 

君の座る席に向かって
伝える練習放課後
100文字? そんないらないよ。
答えは「好きです」

君の座る席に向かって
伝える練習放課後
渡せなかった4文字は
吐息の「さよなら」

 

僕のコンパスが もう少し長かったら
僕らの軌跡(じんせい)ってやつも どこかで交わっただろう

僕はコンパスを 限界まで広げて
それでも追い付けない、君の背中までは

 

放課後コンパス

 

言えなかったあの頃

 

fin
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コンパス、て脚の長さというか。でも、君に追いつけないのは物理的でない距離のせいもあって。
好きだけど言えないとか、そんなことじゃない。遠い君にただ憧れた。
偶然の出会いは必然の別れしか連れてきてくれないから。それでも、君を懐かしく振り返る愛おしさが残るんだ。

どこか、荒井由美サンの「卒業写真」を思い出しながら書いたのかもしれないな。
あれを初めて聞いたのは、忘れもしない小学5年生、放送室で。放送委員のあの子と一緒に。

 

沙久