「倉橋(くらはし)? 倉橋ってば。おーい、寝てんのー?」
放課後の教室、夢の世界から帰ろうとしない男子と、それを起こそうとする女子がいた。

 

『我、君ヲ求ム。』

 

柔らかな笑顔を向ける彼女を見た瞬間、ああ、これは夢の中だとぼんやり思った。
だって大切なクラスメイト、一条遥(いちじょう はるか)は、俺にこんな表情を見せたことがない。
時々ないか?夢だとわかってみる夢。どこかよくわからないような場所にいて、だけど別の自分がそれを遠くで見てるような奇妙な感覚がする。俺も重症だねぇと自嘲しながら近づくと、彼女は楽しそうに微笑んでするりと俺から離れた。不思議に思い手を伸ばすが、それさえもいたずらにかわされてしまった。
「……一条」
なんで逃げるんだと名を呼んでみる。すると彼女は細い人差し指を自身の薄い唇にあてがった。そしてまた微笑む。からかわれてるんだろうかと思うような行為に戸惑う。どこかへ誘(いざな)っているのか、ついてくるなと言いたいのか。ただ笑うだけで、なにも言わない彼女にひどくもどかしい思いがこみ上げてくるのが自分でもわかった。これじゃいつもと同じじゃないか。何もかわりゃしない。俺が気持ちをほのめかしても、気づいているのかいないのか、キレイにかわされてしまう日常そのものだ。これは現実じゃない。だけど現実と何も変わらない。夢でさえ抱きしめることができない彼女は、やっぱり何もわかっていないように笑みを浮かべるだけで。
「ホント、アンタって残酷だよな」
そうやっていつも俺を悩ませる。俺はどれだけ歩を進めても縮まらない距離にため息をついて、目を閉じた。
もうこんな夢、早く覚めてしまえばいい。

 

***

 

「……あ、倉橋やっと起きた。もう最終下校時間近いよ? わざわざ起こしてあげた私に感謝しなさい?」
得意げに胸を反らす一条がうっすらと開けた目に入った俺は、あくびをしながら今まで伏せていた机から体を離した。
「あーはいはいサンキュウご苦労様。さ、帰るかな」
「うっわ、ありがたみこもってなさすぎ。失礼な奴ー」
パシっと背をたたいてくる小さな手のひら。たぶんクラスメイトとしては仲がいいほうだと思ってたけど……。
「……なんか、嫌な夢見た」
自分の戦況の悪さを思い知らされた気がする。相手に近づこうと中途半端に伸ばした手を引っ込めることも出来ずにおろおろしている自分なんて、改めて見たくもなかった。

 

せめて、夢の中でくらい。
君が欲しい。

 

(倉橋?なんか元気ない?)
(…ぅわっ!!ばかやろ、覗き込まんでいい!!!)
(あ、今度は赤くなった。風邪でもひいた?)

「気づいていない」説が有力だと思った倉橋であった。

 

fin
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私絶対“無自覚”好きなんだと思う…orz
時々ワザと煽ってるの書く程度で、天然色香(笑)が多い気がするぞ!!
きっと沙久、そーいう女の子が好みなんだわ!!(オイ

 

(2011/2/13 加筆修正)
沙久