「ごめんな、俺――……」
ああ、神様。今年のクリスマスも
私、幸せにはなれないんですね。

 

『いつか君とMerry X’mas』

 

ふわりと頬に触れた雪に顔を上げると、泣きはらした目が冷たい空気にさらされて少し痛かった。小さくすすった鼻はきっと赤くなってるだろう。
「ホワイトクリスマスかぁ……」
せめてもう少し早くふってくれればいい雰囲気ができたのになと宮下美香はもう一度うつむいた。とりあえず渡せなかったコレを、どうするか考えなくてはいけない。
「……その紙袋、どーすんの?アイツにあげるつもりだったんだろ?」
「そーなんだよねぇ……」
答えてからハッとする。今、誰と会話した?慌てて横を見ると、帽子にマフラーの背の高い男がのんびりと片手を挙げた。
「あれ、オレ気付かれてなかった?さっきから隣にいたんだけど……とりあえずコンバンワ」
「お……緒方?! うそ、なんで……」
今は冬休みで、クリスマスの夜で。こんな街の中デート中でもないクラスメイトに出会うのって無いんじゃないか……。でもそこにいるのは、紛れもなくクラスメイトの緒方新一だった。
「たまたまな、ぶらぶらと歩いてたんだよ。そしたらびっくり、宮下さんが男に振られてるとこ偶然見ちゃってさー。なぐさめてあげようかと思って」
あくまでサラリと言ってのけるこの男に拳を叩き込んでも許されるのではないかと美香は緒方を睨みあげた。
「……緒方、それは温かみある作為的な嫌がらせなんだよね?」
まあ落ち着けよとヘラッと笑い緒方はさっきしたように美香の手元の紙袋を指さした。小さなそれからはオレンジ色にラッピングされた小箱が見えている。
「それ、ケーキかなにか?いらないんだったら食べたいなー」
「……クッキーよ。っとにマイペースっていうかデリカシーがないというか……」
でも自分で食べてしまうのは少しむなしい。仕方ないなとため息をついてから美香は袋をつきつけた。ちょっとだけ驚いたような顔をしてから、緒方は笑顔でそれを受け取った。それは意外にも彼を優しげに見せる表情だった。
「おお、チョコクッキーだ。いいねーオレチョコ大好き」
どこかから聞こえてくるクリスマスソングの中で、私達はしばらく無言だった。ただ緒方がサクサクとクッキーをかじる音が、やけに耳に残った。さきに口を開いたのは緒方だ。
「ね、宮下さん。来年も作ってみるきない?クッキー」
指についた粉を舐めながらの質問に首をかしげると、「だからさ」と緒方がにこりと笑った。
「来年はさ。俺のために作ってみないかって」
「あんたのために?なんで?」
なんのことだと顔で訴えると、今日初めて緒方が苦い顔をした。

 

本当は、その意味がわからなかったわけじゃないんだけど。
素直に微笑むには…まだ、アイツのこと好きだったから。

でもね、いつか。
いつか君とクリスマスを過ごすのも悪くないかもって思えたよ。

 

fin
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しかし、なんともまぁ。
出だし不吉やんけ(^^;;
でもラブラブしてるだけのクリスマス小話ばっかかいててもつまらないかと…要するにこのほかのはラブラブするわけだけど…
緒方、好きです。はたから見てる分ではですが!

 

(2011/2/13 加筆修正)
沙久