指に絡みつく甘い雫を舐めとる仕草をぼんやりと眺めながらため息をつく。 その果実のように頬を染める姿を、早く見たいのに。
『イチゴ味のあどけなさ』
目の前には俺の彼女、只今3ヶ月目。俺の家に遊びにきた彼女に、親戚から送られてきたイチゴをだしたのは、ほんの数分前の出来事だ。だけどその数分がすでに、俺をすっかり追いつめていた。こんなことになるだなんて、誰がわかる? 俺のせいじゃないだろ?
「はぁ……」
「……? どうしたの? ため息なんてついて」
なんでもない、と笑い返しながら彼女を見る。好物なんだろうか、嬉しそうにいくつも赤い果物を口に運んでいる。
「……おいし?」
一瞬きょとんとしてから、彼女は満面の笑みを浮かべた。実に愛らしい。それは良い。
「うん! 翔平は食べないの?」
「ん……そうだな、食べる食べる。俺もイチゴ好きだし」
とは言ったものの、手が進まない。はっきり言おう。その原因は彼女だ。
大きなイチゴを一息には食べられないのか、一生懸命何口かにわけて、やわらかそうな唇で吸うように口に含む。その度に手に零れる汁を舐め、チラチラと赤い舌がのぞく。――……正直な話、それらすべてが気になって仕方がない。
「翔平?」
再びイチゴに手を伸ばしながら目を細める彼女は、多分なにもわかってない。艶のある、それでいて幼いその仕草を、彼女は無意識でやってしまうのだ。3ヶ月たった今でも触れたことのない唇が濡れる様から、目が離せないでいる自分が恥ずかしかった。
何も知らないかのような無邪気さの中に見え隠れする大人びた色気は俺にとって苦悩でしかない。その髪に、頬に、唇に触れたら子供っぽい俺の彼女はきっと驚くだろう。そう思うと、結局なにもできないんだ。
(……照れた顔とか、見たい……)
満足そうに笑う彼女から視線をはずすと、どうしようもなくそんなことを考えてた。
触れたくて、触れたくて。でも多分しばらくは……このあどけなさに、俺は勝てないんじゃないだろうか。
fin
(2011/5/22 加筆修正)