『本日は晴天なり』

 

もう梅雨も明けたっていうのに、ここのところ晴れた空を見れない日が続いている。そんなこと気にしてないように、大きな声で笑いあうクラスメイト達から少し離れた窓際の席、アタシはガラスを滑り落ちていく雨粒を眺めてた。
「どーしたんだよ朝倉? 元気ねぇなー」
頬杖をついてぼんやりしていると、川口が話しかけてきた。すぐ前の席から体を捩っている。しんどいだろうに、そんな体勢。 「雨ってキライなんだよね……気が滅入(めい)るっていうか。だいたい、こんなに長く続くとうんざりするじゃない」 今朝より小雨になってはいても、雨は雨だ。校庭はぬかるんで靴が泥だらけになるし、髪は湿気のせいでまとまんないし、いいことなんてありゃしない。もう一度言う、アタシは雨が大キライ。
「なんていうか、つまんない。雨降ると」
「いやいや。それは雨に関係ねぇからな?そのせいってわけでもないだろ」
わかってるけど……と頬を膨らます。それでも八つ当たりくらいさせてもらいたいものだ。だってこっちは迷惑しかしてないんだから!
「しゃーねぇなあ。じゃあさ、俺が朝倉のために明日晴れにしてやろっか!」 もともと高校生男子にしては子供っぽい顔が、可愛いくらいの満面の笑みを浮かべた。自信満々、といった様子だ。だからといってその無謀な宣言も可愛く聞こえるというわけではない。一度ため息をついてみたが、川口のその表情は変わりなかった。
「……川口? いくらバカだからってそんなバカなことばっかいってると救いようのないバカみたいだよ?」
4回もバカっていったと怒る川口がますます幼く見える。「ばっかり」の意味の“ばっか”まで数に入れてるあたり、コイツは見た目通りガキだ。
「そうだよ。顔は良い方とはいえ、もとが童顔……」
「……? 何言ってんの、お前」
問いかけを無視して、「それで、」と続ける。
「晴れなかったら何してくれるのかな? 川口クン?」
「げ、ひとしきりバカにしておいてからそーゆーこと言うのかよ? 性格悪ぃ……。いや別に、俺だってテキトウに言ってるわけじゃなくてだな、昔から俺の宣言よくあたるからさ?なんてったってヨシズミの生まれ変わりだからな!」
「一応つっこんどく。……ヨシズミさん死んでないよ」
このふざけたテンポの会話にも慣れたものだ。相手にしないより、確率が高いほうに条件を求めてやる方が絶対賢いって知ってる。だっていつもそうだったから。駅前のカフェのチーズケーキね、と笑えば川口の口が引きつった。
「なんてヤツだ、アレ高いんだぞ……。っていうか、それなら晴れたときは俺だって当然なんかしてもらえるよな?」
そっぽを向いてそうだねと返す。どうせ晴れるもんか。
「来週、俺とデートしてよ。見たい映画があるんだ。朝倉とね」
一瞬意味がわからずにきょとんとしてしまった。何言ってんの、コイツ。にっこり笑う川口が、そのときだけ別人みたいに見えた気がした。まったくもってこいつの意図がわからない。アタシなんかと一緒に見て楽しいとでも思うの……?
「んー?異存はなさそうだな!よし、決定♪」
何にも言えなかったのは、すごく混乱してたから。
どんなつもりで、どうしてアタシに、そんなこと言ったんだろうって。

 

 

次の日の朝、カーテンを開けたアタシは頭を抱えることになった。

 

本日は晴天なり。

 

fin
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やっと爽やかな話がきた気がする…っ!
予定していた会話と大分違うものになったけど、キニシナイ。
たぶん朝倉ちゃんは「アタシはその条件をのんだ覚えはない」って言って断るんだと思います(笑)
がんばれー川口。敵は手ごわく、そして鈍感かもよー。

 

(2011/2/12 加筆修正)
沙久