会話文多目、連載キャラでないパターン。

 

『ハロウィンの恋人たち』

 

「はっぴぃはろうぃーん! とりっく、おあ、とりーと!!」
 大きな音を立てて突然入ってきたかと思えば、つたなすぎる発音と満面の笑み。俺はツインテールを揺らす無邪気な恋人に、呆れ半分でため息をついた。残り半分は、まぁ、いいとして。
「はいはい……来ると思ってたよ。今年は用意しといたからな」
「えー? 去年みたいにめいっぱいイタズラしてあげようと思ってたのに」
 お菓子よりもそっちがメインか。“イタズラ”だなんて可愛いものではなかった昨年の被害を思い出し、眉をよせずにはいられない。コイツはいつだって変なところが本気なのだ。その全力さには迷惑を被ったことしかない俺である。
「でも、いっか! イタズラはハロウィンじゃなくても出来るもんね。ハイお菓子ちょーだいっ」
 聞き捨てならない言葉に、アメを取り出そうとポケットに差しいれた手が固まった。確かに、少し度を越した俺へのちょっかいは年々悪化しているとは気付いていたが、そんな悪意たっぷりな笑顔を見せられてはたまったものではない。去年並みの仕掛けがこれから日常として姿を見せるとなるとそれはただ事ではないということだ。
「この辺で釘をさしておかないと俺の身が危険だ……」
「ん? なぁに?」
「いやなんでもない。……な、ほしいか?」
 くしゃりとアメの包み紙をはがしながら横目で見やる。期待に満ちた、嬉しそうな顔がそこにあった。
「ほしいほしいっ! ……って、え? えと……?」
「お菓子がほしかったら大人しくイタズラされてろよ……」
 ぐっと顔を近づけた俺に驚いて身を引いたようだが、俺の方が僅かに早かった。
 ふっくらとした彼女の唇に、俺の薄いそれが重なる。粘着質な音を響かせ離れたときには彼女の口の中にはイチゴ味のアメがひとつ。
「……おいし?」
 にっこりと笑いかけてやれば、幼い顔はみるみるうちに真っ赤になった。
 子供っぽいだけで子供ではないのにこういうところはいつまでたっても可愛いんだ。
「な、ば……っ!!」
 何かを言いかけてそのまま黙りこむと、赤い頬を抑えながら来たとき以上に騒がしく足音を立て部屋を出て行ってしまった。……まるで嵐だな。
 愛おしい反応に思わずほおをゆるめながら、自信の身が守られたことに安堵したのだった。

 

ハロウィンのイタズラはあえて君に。

 

「……むむむ」
「……はぁ」
 あれからというもの、いかに仕返ししてやろうかという視線をいつも背後に感じています。
 ……もしかして逆に危険になったのか?

 

fin
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なんかこう、イタズラって。
イタズラって、恋人たちの微笑ましくもラブラブなイメージがきっとあるんです。
しかし、「大人しく〜」のセリフ、ちとえりょすぎではなかろうか(笑)
去年とネタが近いとか聞こえなーい!!

 

(2011/9/12 加筆修正)
沙久