好きで、大好きで。本当はすぐにでも触れたくて。
でもそんなこと素直に言うなんて、死んでも無理だと思うね。

 

『カウントダウン・キス』

 

ソファーに座ってるオレ、床に座ってる彼女。その距離、20cm。
恋人同士が同じ部屋に二人きりでいるというのに、なんて静かなんだろう。聞こえるのは甘い囁きではなく彼女が雑誌をめくる音だけ。トモダチでいた時間が長かったせいだろうか、「恋人らしい」時間というのはどうにも慣れず、これがオレたちにとって当たり前になっていた。他に誰もいない彼氏の家へ来てここまでくつろぐコイツもコイツだけど、無防備な彼女を目の前にして、ケータイゲームをやり込んでいるオレもオレ……かな。
「……なあ」
さすがにヒマになって声をかける。触れてみたら彼女は怒るだろうか。
「なによ?」
返されたそれはあまりにもそっけないものだったが、気にせず続けることにした。いつものことだ。
「オレらってさ、つきあってんだよな」
「そうね、なんだかんだいって長いわね私たち」
ようやく彼女の顔が紙面から俺の方に向いた。お互い表情のないまま意味もなく視線が絡み合う。
「もっと恋人らしい休日の過ごし方ってのがあるんじゃねーの? せっかく2人でいるんだから」
オレは少し背を丸めて身を乗り出すようにして、彼女は背筋を伸ばしてあごを軽く上げた。その距離、10cm。
「私、そーゆーのよくわかんないし。いいじゃない2人でいるんだから」
「じゃあせめて会話くらい続けようとしろよ。ファッション誌なんて読んだってどうせ参考にもしてないくせに」
オレは彼女の肩に手を置いて、彼女は目を閉じた。その距離、5cm。
「オレといるときしかできねぇことだってあるだろ」
「わがままいう男ってキライよ」
今度はオレも目を閉じた。

 

その距離、0cm。

 

再び20cmになったオレたちはそれぞれの暇つぶしに意識を戻した。

 

fin
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やたらと冷めたカップルですが…やってみたかったんです、しゃべってることは
喧嘩じみてるのにやってることはらぶらぶ。まあ名前でてこないけど。
なんかこの子らお互いにわかりあってる気がするんですよ、冷めてるなりに。
「その距離、0cm」がかなり気に入ってます^^

 

(2011/2/12 加筆修正)
沙久