私が憧れたのは
誰にも摘み取られることのない、凛としたその姿。

 

『天翔(あまかけ)る神の御園(みその)の』

 

広々とした静かな部屋。薄明かりに照らされる室内は殺風景でしかなく、どこか生活感がないのは、主(あるじ)がベッドから離れられないためだろう。せめて飾られている花はしおれないようにと、私は淡い色のカーテンを開けた。
「今日は天気がいいのね」
首をわずかに動かして言う、あなたのか細い声が私の背をなでる。そうですねと答える代わりに今度は窓も開けた。
「こんな日にぴったりの歌があったわ……なんだったかしら」
目元を和ませたあなたの顔は、弱々しくもやはり美しかった。
どうしてそんなあなたに今、病は襲いかかってくるの。どうしてその白い肌が青みを帯びなくてはいけないの。
異国の歌を口ずさむあなたは、とても楽しそう。
「……どうしたの? そんな恐い顔をして……私はもう長くないんだから、できるだけ笑顔を見せて」
死に対する怯えなどない、堂々とした声音。私は黙ってあなたの手をとり首を振った。
「生きて」、とは言えない。迷いを捨てたあなたを困らせたくはない。でも、「死ぬ」覚悟なんてして欲しくない。
たとえこの世界に別れを告げる日が来ても、それは

天翔る神の御園の花になるだけのこと。

誰の記憶から消えてしまっても。
あなたはそこで咲き誇っていて。

 

fin
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国籍が激しくわからないぞ!!;;
小難しいタイトルをつけたくて考えました。
これから似たようなタイプのを書くこともありますがシリーズではありませんのでご注意を
イメージとしては若くして重い病気にかかったお嬢様と付き人の少女。

*天翔る――……大空を駆け巡ること

 

(2011/2/13 加筆修正)
沙久