好きになっちまったなんてセリフ。
言ったってどうせアンタはもういない。

 

『甘イ 蜜ハ イカガデスカ』

 

今何時だろうか。今朝はめずらしく目覚ましが鳴る前に意識が戻ってきた。
横目に見た、淡い黄色のカーテンからこぼれる日差しが心地いい、けれど。
「なんか……頭いてぇ……」
こんなにも爽やかな朝だっていうのに二日酔いとは、俺はなんて悲しい奴なんだろう。そんなことを考えながら、乱雑にしかれてる布団の上でぼうっとしてると、不意に隣で同じように寝ていたはずの存在がいないことに気づいた。自分が端のほうにいるせいもあるが、狭いふとんの上にぽっかりあいた一人分のスペースが目立つ。確かにここに、もう一人いた。
「あぁ……そっか。彩花(あやか)だ」
そうだ。彼女がいない。薄い唇に鮮やかなルージュをひいた、彼女が。
昨日は中学の同窓会だった。ガキだったあの頃に比べれば、良い意味でも悪い意味でも俺らは変わっちまったんだなってよくわかった夜。10年ぶりの再会にはめをはずして、みんなで浴びるほど飲んで。その中に彩花もいた。
俺の記憶の中の藤原彩花は、一言で言うと、「地味」。別にメガネもかけてなければ三つ編みもしてないし、暗かったわけでもない。何が原因かもわからない。それでも、彼女のイメージなんてものは特になかった。それなのに、昨晩の彼女はまるで違って……なんていうか、艶っぽいっていうの?騒いでいた時は気付かなかった、薄いカーディガンの下の、ラインを強調した服。ぞくりとするような笑み。酔っ払って誘いをかけた俺に、からかうように腕を絡めて寄り添ってきた様には思わず唾を飲んだ。
「あいつ帰ったのか……?声くらいかけてけっての。ばーか」
声が掠れる。水でも飲まなきゃ……。ゆっくりと起き上がり体を伸ばすが、それでも彩花の姿は目に入らなかった。枕元にあったはずの、脱がした服も見当たらない。本当に帰ったんだ。
「連絡先とかなんも聞いてねぇし。俺ってばどんだけ夢中だったんだよ。……ばかはこっちか?」
はは、と笑った声さえ掠れきって消えていった。
ゆらり、ひらりといくつもの花へと舞い飛ぶ移り気な蝶のように、彼女は気まぐれに俺の手におさまっただけ。きっと同じ蜜になど興味もないのだろう。
「……彩花」

 

一人きりの乱れたシーツの上。誰も、答えてはくれなかった。

 

fin
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うおおぉぉぉい。(←どっかで聞いたことある)
いいのか?遠まわしに表現しているとはいえ、表で(え?)こういうネタって果たして許されるのか?!
すいません、沙久はこっち方面も書いちゃうんですorz

 

(2011/2/12 加筆修正)
沙久