容赦なく吹き付ける冬の風から逃げるように入った喫茶店は、ふわりといい香りに包まれていた。

 

『400hitリクエスト〜たまには君とコーヒーでも〜』

 

SDのキャラですが、本編とは少し違うイメージで。
類が若干偽者っぽい…(汗) 「あー、寒かった……類くん真由さんこんにちはっ」
「いらっしゃい冴ちゃん」
 すっかり北風に乱されてしまったマロンブラウンの髪を整えながら、冴はにこりと笑った。マスターである真由やその弟の類とは、すっかり仲良くなったものだ。それほど彼女はここに通いつめている。
 見慣れたメニューを眺めていると、独特の香りが鼻をくすぐった。振り向けばすぐ後ろでカップを片手に類が微笑んでいる。自分に出されるのかと期待したのに、類はそのままそれを一口すすった。不満げに見上げてもクスクス笑われただけだった。
「……類くんさー、いくらヒマだからってサボりすぎ。そこは「オレのおごり」とか言うところだよ」
「オレはこう見えてちゃんと働いてるんだよ? それに、これは多分冴ちゃんには甘すぎるんじゃないかな」
 エプロンのポケットに手を突っ込んだまま楽しそうに話す類に、冴は苦い顔をした。
 冴は決して甘いのが苦手というわけではない――……類が甘党過ぎるのだ。彼に勧められるままに食べた菓子が甘過ぎて思わず眉間にシワを寄せてしまったことは、まだ記憶に新しい。
(普通はさ、ブラックだからとかそーいうのの方が、大人っぽいのに)
 好みも顔も、笑顔さえも甘ったるい青年に小さくため息をついた。もう「類らしい」としか言いようが無いくらい、今さらのことである。冴もそれはわかっているので、気持ちは優しいままだ。
「もっと言ってやってよ冴ちゃん。類ったら私の言うことなんか聞きやしないんだから」
 カウンターの向こうから耳に心地良い高さの笑い声が聞こえる。真由さんも苦労してんだねと笑ったら、彼女は台拭きを絞りながら「聞いてくれる?!」と身を乗り出してきた。
「元々この店って普段から忙しくは無いから確かに支障は無いのよ? バイトの子もいるし……でもね、自分の家族が経営してる店に雇ってもらっといて仕事中に商品であるコーヒー飲むしいつの間にかアメ食べてるしいつまでたっても一人暮らししないし結婚しないし……!!!」
 熱が入ってきた真由を止めるように冴は慌てて口を開いた。後ろでは類が非常に苦々しい顔をしている。
「ま、真由さん落ち着いて……最後関係ない、関係ないから」
「……お言葉だけど。コーヒー淹れる以外台所関係が苦手な姉さんが最初に誘ったわけで、さらに古くなった豆しか飲んでないわけて、結婚はしたくても出来ないんですけど」
「あーら類、店長に口答えするの?」
 あくまでお互い笑顔のまま繰り広げられる姉弟ゲンカに唖然としていると、奥の部屋から書類のようなものを持って出てきたアルバイトの男の子が――……その様子を見て黙って部屋に引っ込んでいった。見慣れているのだろうか。未だ言葉を交わしたことのない彼は、どうにも良く気が効くようだ。
「ま……真由さんっ、私カプチーノ飲みたい……な?」
 恐る恐る割ってはいると、意外にもすんなりと2人は作業に入る。テキパキとした動作は息がしっかり合っていて、この人たちってよくわからないなと冴は笑った。
 出された熱々のカップを手に取ると、類は先ほどのやり取りの間にすっかり冷めてしまったコーヒーをすすっていた。懲りないものだ。冴は同じように唇をつけながら、ちらと視線をあげる。
「類くん、いっつも立ったまま飲んでるよね」
 まあねと微笑むが、本当は飲んでいることがおかしい。それを言うとまた話が戻ってしまいそうなので黙っている。 「どうせ飲むならさ、こっちおいでよ」
 自身が座る席の隣のイスを引くと、そんなに意外だったのか、類は驚いたような顔をした。この方が楽しいじゃない? と笑う幼い笑顔に負けたのか、目を細めてイスに手をかけた。冴自ら誘ったのでは文句は言えまいと真由も見てみぬふりをする。
「あんまり、ゆっくり話すことって無いじゃん。いい機会だから色々聞かせてよ」
 冴の笑顔に、類がかなうはずもなく。
 しばらくしてもう一度奥の部屋から書類のようなものを持って出てきたアルバイトの男の子が――……甘い雰囲気の2人を見て、黙って部屋に引っ込んでいった。

 

 今日はなんだか、いつもよりのんびりと時間が流れた。

 

fin
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ほ、ほのぼの…できたのかといわれれば否と答えます…っorz
ギャグに走ることも出来ず中途半端な感じになってしまいました;;
住田さん、こんな感じでも許してもらえますかね…;;
とりあえずいい機会なので類の職務怠慢を沙久なりに咎めておきました(笑)
リクエストありがとうございました!

 

(2011/9/12 加筆修正)
沙久