『3300hitリクエスト〜fantasticスーパーナチュラル〜』

 

「ハジメ、ちょっと聞きたいんだけど」
それは突然のことだった。柔らかく日が当たる放課後の美術室で、ショートカットの女生徒が振り返って言った。
「超能力に目覚めたらどうする?」
ハジメは描きかけのキャンバスから目をあげ、筆を置き、美術部員でもない彼女をもう一度見た。部屋の端での出来事なので他の生徒は特に気にとめた様子もなく作業を続けていたが、今こそ彼女の言動につっこみを入れてもらいたいものだ、とハジメは短髪の頭をかいた。ついこの間までダラダラ伸ばしていたが、本格的に作品製作に取り掛かり始めたことを機にさっぱりさせたばかりだった。
「……それは、超能力系なジャンルに興味を持ってしまったって意味?」
「違う違う、自分がそういう力を持ったらって意味」
「どっちにしろ寧々(ねね)、お前今ちょっとウザいよ」
普段からよく軽口を叩き合っているため、寧々は「ふゥん」と言っただけだった。
寧々は美術部員ではないし美術とは縁がない。ただハジメのそばをウロウロしては、邪魔をするでもなく、時々口を挟みながらよく放課後を過ごしていた。最近では他の部員と話しているところも見かける程だ。彼女の持つ独特の空気は、この教室に妙に馴染んだ。
「ねー、超能力」
「なんか今日は随分しつこいな」
そうでしょうそうでしょう、とよく分からない相づちを打って、寧々は椅子に座りなおした。わざわざハジメの傍まで引っ張ってきたものだ。
「ハジメはもし目覚めちゃったらどうするのさー」
じっと見上げられ、ハジメは視線をそらした。ハジメよりずっと体が小さい寧々が上半身を傾けながらそうすると、完全に上目遣いになるのだ。瞳を合わせることにわずかな罪悪感を感じ、作業に戻りながら、そうだなぁと考えた。
(チョウノウリョク、ねぇ……)
そもそもそれってなんなんだ。心の中で呟きながら筆を動かす。ハジメが描いているのは空の絵だった。空だが、その蒼い色の中には一匹の大きな魚が跳ねている。広い空間に波紋を作り生き生きと泳いでいるが、確かにそこは空だった。
空。ふとハジメは思いついた。よくわからない能力だけども、それはきっと空くらい飛べるんじゃないだろうか。さっそく口に出そうとしてふと気がつく。この変わり者の問いへの答えとしては、もしかしてものすごく普通すぎではないか?しかしこれといって他に思いつくものも無い。ううんとうなりながら、碧色に光る尾びれに細い線を入れた。
「ねぇ、ハジメ? 聞いてない?」
ちらりと大きな瞳を見て、小さく咳ばらいをした。
「お前はどうすんだよ、そのヘンテコな力持ったら」
「ヘンテコってまた可愛いこと言うね」
ムッと思いつつ何も言わないハジメをよそに寧々はフンと息をついた。脚を軽くバタつかせて、時計を仰ぎ見て、どこか遠くを見つめながらぼんやりと言った。
「ワタシ、何もしないのかもしれない」
この間「この番組おもしろくない」と言った時と同じトーンだった。あれは昼休み誰かが勝手にテレビをつけたときのことだっただろうか。あまりにも意外な答えに、ハジメはそんなことを考えていた。
「……っていうか、人に聞いておいてお前は何もしないってなんなの、寧々。どうせならなんかしたら? ほら、空飛んでみるとか」
さりげなく自分の考えを混ぜてみたが、ごく普通に「いいねぇ」と言われただけだった。なんとリアクションの小さいことか。悩みすぎだったことをハジメはなんとなく恥ずかしく思った。
「やろうと思えばきっとたくさんできることがあったんだろうと思うけど。やっぱ、何もしない。うん、それが確認したかっただけなのかもしれないや」
「相変わらず意味分かんない奴というか何というか……」
苦笑いをするハジメと対照的ににっこり笑ってから、今日は帰るわと寧々は立ち上がった。てきとうに周りに声をかけてから扉を開ける。その後ろ姿を、ハジメが呼び止めた。
「なあ、おい」
寧々が少しだけ振り返ったことを確認してから筆を置くと、ハジメは深呼吸をしてから口を開いた。眉がわずかに寄せられている。
「できることがあったんだろう、って、なんだよ」
「あると思ったんだよ。でももういいやって思ったから、過去形にしてみただけ。あとそこの机、釘出てて危なかったよ」
指差された方を見たが、そこには綺麗に板に埋もれた古い釘があるだけだった。飛び出てなどいない。
(……あいつ、危ないよじゃなくて「危なかった」って言い方した)
もう一度ドアの方を見たときにはもう寧々はいなかった。ハジメは筆が持てそうになかった。心臓が急にバクバクといいだした。

 

“超能力に目覚めたらどうする?”

 

それでお前はそういう答えを出したのか。
誰もいない廊下に向かって、ハジメは目だけでそう問いかけた。

 

fin
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なんじゃこりゃあああぁあぁあー(°Д°;;)))アアア
ごめんなさいなんだかよく意味がわからないものになってしまって…!!
しかもなんだこのタイトルは!和訳すると「幻想的超能力」かなんじゃそりゃ!!ってか半端な英語表記!!
リクの書き方的にちょっとこれはギャグに走るべきかなー?って思ったはずだったのに、出だしもそのつもりだったのに、何がどうなってこう真面目な雰囲気になってしまったのか…あれ、寧々ってばなんか超能力少女な感じ?でも釘の出っ張り直しただけってどんだけ地味なん?
無双さん、せっかくのリクをこう妙な仕上がりにしてしまってスイマセン;;
でも!でも俺としては書いてて楽しかったから…!うんだからなんだ!←
リクエストありがとうございました!!^^

 

(2011/2/26 加筆修正)
沙久