『2800hitリクエスト〜だから別に君のためじゃない〜』

 

「じめじめするわ……あたしこの時期って大嫌い。ねえ吉宏(よしひろ)、なんとかしてよ」
 湿気を含んで思い通りにならないたっぷりとした長い黒髪を撫でつけながら、桜子(さくらこ)は眉をしかめて言った。梅雨に入りかけのこの微妙な季節。高くなってきた温度と湿度に不快感を感じているのは何も君だけじゃない。僕だってさっきから蒸し暑くって仕方がないんだ。
 彼女が通い詰める僕のアパートは小さい。さらに古い。クーラーなんていう利器もなければそれを買い使用するだけの金の余裕も僕にはなかった。桜子も、僕とつきあっていればそんなこと知ってるだろうに、いつもこのわが家に来ては文句を言っている。
「扇風機でも出そうか?」
「時間がかかるでしょ、しかも、埃のにおいがするのは嫌」
 優しさと譲歩は簡単に一蹴されてしまった。……君はどうせ作業しないだろうに。
「空もどんよりして……もう、帰りに雨が降ったら困るわ。吉宏大きな傘持ってたわよね? ちゃんと送っていってちょうだいね」
 ふんわりとしたスカートの裾をパタパタさせながらこちらを振り向くのは、ちょっとやめてほしいな、と心の中だけで呟いてから桜子を見上げる。君の履いているその白いソックスは、いったいどこまでのびてるんだ?
「送るのは構わないけど……でも空なら今朝からこの調子だったろ? 自分の持ってくればよかったのに」
 そう言って桜子と目を合わせると、彼女は突然怒ったように座り込み、僕から目をそらしてしまった。何が彼女の気を悪くしたのかさっぱりわからない。貸してやるから一人で帰れ、と言ったわけではないのに。
「……じゃなかったのよ」
「え? 何?」
 小さすぎて聞き取れないよ。
「……持ってくる気分じゃなかったのよ! 悪い?!」
 今度は大きすぎる声でそう怒鳴られる。僕が少し驚いて身を引くと、彼女はぷいとそっぽを向いた。なんとも勝手な、彼女らしい言い分だった。
「そんなことより暑いの! なんとかしなさいよ、もう!」
 すっかり腹を立ててしまったらしい桜子に苦笑いを返しながら、僕は長く折ったままだった脚を伸ばし立ち上がり小さな冷蔵庫を開けた。ひやりとした冷気が心地いい。いつまでも浴びていたかったが電気代が気になるので急いで目的のものを二つ取り出し惜しみながらふたを閉めた。
「なによ、それ」
 怒った横顔はそのままに、彼女の目が興味深げに輝いている。試しに右にひょいと振ってみると丸い目がそれを忠実に追いかけてきた。なんともかわいいものだ。
「手製の紅茶シャーベット。甘めの紅茶をコップに入れて凍らせるだけのね」
 はいどうぞ、とスプーンと一緒に白い手に持たせてやる。物珍しげに眺めてから、彼女は僕をじっと見上げた。
「食べてもいいよ? 僕の分もあるし」
「……貧乏くさいっておもってただけよ」
 つんと澄ましたまま丁寧にスプーンでシャーベットをすくうとそっと口に含む。ふわりとその表情が和らいだのを、僕は確かに見た。しゃくりしゃくりといい音がする。僕も一口食べた。口の中が冷たくて気持ちかった。
「紅茶味はなかなかないだろ? 一度やってみたかったんだ」
「初めて作ったの?」
「そ、僕の探究心のために作ってあったの」
 座布団の上で身じろぎをしてから、僕はわざとらしく肩をすくめて見せた。
「だから別に君のためじゃないよ、遠慮して食べてね?」
 桜子は一瞬きょとんとして、それから微笑んでくれた。
「吉宏のくせに」
 優しげな瞳をしているという自覚はなさそうだった。

 

 素直じゃなくて扱いづらい。
  そんな彼女が、僕は愛しくて仕方ない。

 

fin
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何の意味もない話になったー!orz
ツンデレ?!これってツンデレなの?!ツンとしてデレるのってこんなに難しかったの?!!しかも恋愛してますか君ら!!(泣)
うぅ…コージさんこんな感じになってしまってごめんなさい…;;
紅茶シャーベット食べたい…誰か作って←
リクエストありがとうございました!

 

(2011/9/12 加筆修正)
沙久