「しあわせ……」
昔のえらい人と同じ気分を味わいながら、オレの春休み一日目は始まった。

 

『2300hitリクエスト〜春眠、暁を覚えずにはいられない〜』

 

 ぽかぽか、ぬくぬく。なんと形容すべきだろうか、このまったりとした幸せを。
 今日から春休みだから早起きしなくていいし、うるさい目覚ましだってならない、母さんは「起きなさいよ」とだけ声をかけてもう仕事に行ってしまったから邪魔される事なくだらだらとできる。
 そう、絶妙な温度を保つ布団の中で!
 今日は何しよっかなーと考えをめぐらせながらまどろむ時間は誰でも楽しいはずだ。夢の中に片足を突っ込んだ状態でぼんやりと過ごす。なんてステキなひと時だろうか!
 この間、寝ているわけじゃないんだ、起きてないだけで。起き上がってないだけで。はっきりとしない意識は正直言ってあっちにいったりこっちにいったり、と定まらないからあまり考え事をする意味はないが、そういった無駄な時間こそ普段はなかなか取れないもの。満喫するに限るのだ。これからしばらくこんな朝を迎え続けることが出来ると思うと、オレは自然とにやけていた。
(……あ、メール来た)
 枕元で短い着メロが流れ、うっすら目を開く。そういえばさっきから時々きてるな……朝からなんだってんだ。ケータイに手を伸ばそうとはするが体は頭以上に寝ぼけているらしくまったく動こうとしない。あとでいいか、と再び目を閉じた。閉じたけど。
 その直後……なのかな、ちょっとぼーっとしてるから自信ない、そのくらいにガチャガチャと玄関で鍵を開ける音がした。続いて廊下を歩くうるさい音、大きな声、あー……近づいてきた。
「明(あきら)ー!! 何でまだ寝てんのよ?! 洗濯物入れておいてってメールしたじゃないの!!」
「は……? あ、さっきの母さんだったの……?」
 大声量に慌てて飛び起き答えると、スーツ姿のままの母さんが肩を怒らせている。
「さっきじゃないっ! 昼に雨降り出したころ送ったんだから!! ぐっしょぐしょじゃないのよ馬鹿息子ー!!」
昼? 雨? 何言ってんだ。
「ってか母さん、今日は何でこんな帰り早いわけ?」
 のんびりと言うと、母さんの顔はますます険しくなってしまった。とはいえまったくわけがわからないオレは、雨の音なんか聞こえないぞとカーテンを引いた。
「……れ? 真っ暗……?」
「ついさっき止んだわよ、あんたが爆睡してる間にね……!」
 おかしい。おかしいおかしい! オレは母さんが家を出てからずっと意識はあったはずだ。そう、時々目を開けて、メールの音がして……そうだメール! さっき来たと思ったけど、あの時は何時だったんだ?!
(……マジか)
 ケータイのディスプレイ、受信メール。合計三件の新着。
 八時三十五分、クラスメイトからカラオケの誘い。
 十二時八分、母さんから洗濯物について。
 最後は五時十二分、レンタルビデオ店のメルマガ。
 現在の時刻……七時ジャスト。もちろん、夜の。
 なんだこりゃ。オレは瞬き一つごとに一、二時間未来へ飛んでいたとでもいうのか。そんなまさか。恐ろしいことに、夢の中にいては時間の感覚だけではなく自分が寝てるか起きてるかの判断もできなくなるようだ……。
「用意しておいた朝ごはんも昼ごはんもそのままじゃない、まったくもう! 明、あんた晩御飯としてどっちも食べなさいよ?! もったいないったらりゃありゃしない……」
 文句を並べながら部屋を出て行った母さんの小さいながらも迫力のある背中を見送りつつ、オレは伸びをした。

 

 春眠、恐るべし。

 

 結局寝すぎたせいで深夜まで目が冴えてしまい、同じことを繰り返すという悪循環は春休み中続いたのだった。

 

fin
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ふー、なんとか書ききりました!
なんだろうこれ自分の話かしらとか思いながら←←
自分では起きてるつもりなのに平気で一時間二時間過ぎてく事ってありません?あれ、私だけ?
奏汰さん、こんな感じでもよろしかったでしょうか?;;
リクエストありがとうございました!!^^

 

(2011/9/12 加筆修正)
沙久