『1200hitリクエスト〜おれ的日常。〜』

 

「高木ーっ高木高木た・か・ぎー! ティーエーケーエージーアイ高木っ!!」
 運動部の奴らも引き払った静かな運動場に向かって、教室の窓から叫ぶ。大声はどこかで跳ね返ることなく遠くに消えていった。なんとなくその余韻に浸っていると、後ろから容赦の無い拳が飛んできた。
「……ってぇな! 何すんだよ高木ぃ、痛いじゃん!」
「人の名前全力で叫ぶ坂井のが悪い。むしろお前を殴ったせいで手がヒリヒリする俺に謝れ」
 だってヒマなんだよ……と唇をとがらせるが、高木はフレームの無いすっきりとしたメガネを押し上げただけでそれ以上何も言わなかった。仲は良いんだが、やっぱり高木は冷たい。
「お二人さん、今はオレの手伝いに集中してくれると嬉しいんやけど」
 風邪で先週一週間休んでいた病み上がりの佐竹(さたけ)が、ノートから顔をあげて半笑いを浮かべた。一週間分の授業は結構進んでいて、写させてあげようとはしたがあまりにもひどい量だったから、おれと高木も作業に参加しているのだ。ちなみにおれは日本史と英語、高木は現国だ。残りの教科は佐竹。
「さすがに飽きてきたんだよ……。だって日本史の森田ってあの細かい字で黒板一周半するんだぞ? 佐竹のためを思ってとはいえ、よく起きてられたよおれ……」
 んーっと思い切り伸びをする。なんだかんだいって付き合いの長い友達2人の顔を、ぼんやりと眺めた。おれらももう高3かぁ。
「……そうだよ、高3なんだ。っていうことは高木と会って9年目で……佐竹が大阪から転校してきて7年目か! うへぇ、そんな時間たってたんだなー。なぁ、お前まだ標準語うつんねぇの? つられない?」
「なんでオレがお前ら東京人にあわせたらなあかんねん。そっちに大阪弁うつる方が自然や、自然」
「佐竹はたぶん一生そのままだろ」
 もう何度目かわからない、方言についての議論は高木の一言であっさりと終わる。振り返ると時計はもう6時近くて、面倒くさいと思いつつもシャーペンを握りなおした。実のところ、あと数行で書き終わるんだ。なのにこの数行が案外長い。あと少しあと少しと自分に言い聞かせているのにだんだんスピードが落ちてくる。なんで一週間も休んだかな。3日くらいで直してくれれば良かったのに。
「がんばれよ坂井。……終われば、帰りに週刊マンガ買いに行くんだろ?」
「そーだよ、今日発売日だし。あー……がんばれ、おれ。佐竹もがんばれ。高木は……てめ、いつの間に終わってたんだ! そーいやお前一番教科少なかったよな!?」
 今さらだな、と口の端を持ち上げる高木を睨み上げる。本当は見下ろしてやりたいのに、座高がそうさせてくれない。……身長じゃないぞ、座高のせいなんだぞ。そうに決まってんだろ。
「ありがとぉな、坂井。高木も。お礼に今度なんかおごったるわ……一人50円までな」
 それは安すぎるだろと冷静につっこまれた佐竹は「そーか?」と首を傾ける。……意外と本気だったらしい。おれは笑っていいのか悪いのかわからず、微妙な表情をした。目を落とすと最後の一文字を気合で書ききって、勢いよくノートを閉じ立ち上がる。
「よっしゃ、終わったぁ!! ツンデレツインテールでお嬢様なヒロインが本屋でおれを待っている!! 『早くするのだ!』って感じで待っている……!!」
「あ、すまん。オレまだや。もおちょい待ったって」
 悪いなぁと顔の前で手を合わせる佐竹をしばらく無言で見つめてから、おれは渋々と席についた。おおざっぱな性格の割りにきっちりしてる佐竹のノートでは走り書きなどありえない。そのせいもあってどうしても遅い気がするんだ。 「……なあ高木ぃ。お前進路調査のプリント、もう提出した?」
 カバンの奥でシワになっているだろう紙を思い出し、机にひじを着いている高木を見る。高木は肩をすくめると、首を横に振った。
「特に将来やりたいこともないし、どうにも考えづらいんだよな……。坂井もだしてないんだろ?」
「当たり前。おれがこの先したいと思ってるのはお前の前の席に座ってる吉川サンとちゅーしたいなーとかぐらいだ」
高木と佐竹が息もピッタリに顔を見合わせた。
「……その人選は、ちょっと」
「半端やな……上か下かって聞かれたら、中や。吉川は中のなかの中やで」
 人の好みに文句つけてるヒマがあったら早く写せ、と軽く頭を叩(はた)いてやる。世の男が全員美人だけが好きだと思うなよ、ちくしょう。
 痛いわアホ!と笑いながらペンを握りなおした佐竹から視線をはずして窓の外を見る。もう空は薄暗かった。
 もうすぐ大学生になるんだな、なんて。合格どこらか受験すらまだしてないのに考えてみる。その頃にはおれらはどうしてるかな。まだ友達やってるんだろうか。
 もしそうなら――…… 「おい坂井、目開けたまま寝るなよ」
「……寝てねぇ!!」
「どうやろな、怪しいんちゃうか?」

 

 もしそうなら、変わらずにこんなバカやってるんだろうと思った。
 それがおれにとって、こいつらにとっても、日常になってたらいい。

 

fin
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というわけで見事にグダグダエンドを迎えました、『おれ的日常。』!
…お粗末さまでしたm(_ _)m
「〇〇さんとちゅーしたい」というセリフに批判的な意見を返される、ただそのシーンが書きたいなーと思っただけという不純な動機から生まれた作品です←←
いや、男子学生のゆるーい会話ってこんなしか思いつけなかったんですが(^^;
柳さん、いかがでしょうか…;;
ちなみにこの作品で一番苦労したのは佐竹の関西弁です(泣)←※沙久は大阪人です
この間もクラスメイトに「いつまで東京に住んでたん?」と聞かれてしまった沙久が、大げさにならないように関西弁を打ち込むのはホント大変で…orz変なトコあったらスイマセン;;
リクエストありがとうございました^^
これからもよろしくお願いいたします!

 

(2011/9/12 加筆修正)
沙久